おもいおこせば
Sound of Silence
冬野
足を雪に埋めたまま 梢を眺め続けた
木々は同じように背丈をあわせ
木々は同じように枝を広げあわせ
冬のくっきりの青い空を背景に揺れている
なにかが彼らを揺らし続ける
梢近くで 空近くで
枝がかさなり ふれあい
かすかな 響きが生まれている
見ることを忘れないと見えないような木々のふれあい
聞くことを忘れないと聞こえないようなふれあいの響き
わたしも ゆれはじめそうだ
記憶はどうやって沈み込んでいたのだろうか
遠い日 わけのわからぬままに 口を開けて見ただけのはずの
ロシアの映画のシーンが浮かび上がる
目の見えない少女が玉乗りをしている
大きな玉は少女を乗せてゆっくりとまわる
少女の見えない目は 玉の動きをたどり 玉を回し続ける
音を失った少年が高い梢を見つめている
風が激しく梢をゆさぶる
はるか遠くに失った音が
冬の風が 高く梢を揺らし吹きすさぶ時にのみ
少年にもどってくるのだ
かすか とおく 少年に風がきこえる
見る目を 聞く耳を 持ったわたしが
今日は
見るために目を忘れ 聞くために耳を忘れようと必死だ
音も色もない 冬の野に
少女を乗せた玉が ゆっくりと 回り続け
少年の風が 高く 流れ続け
中途半端に 薄汚いわたしは
泣きたさを こらえている
ノコギリソウ
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(2008.1.20)