おもいおこせば

    著者:フィリパ・ピアス Philippa Pearce
冬の庭 イチイの木並ぶ芝生の庭 凍えてしまいそうな小さな心
女の子 最後の暖かさ求めて つぶやき くりかえします
       そんな 女の子の秘密の庭 
 トムは 片足スリッパでの足跡 残していったようです
 

**********

トムは真夜中の庭で

雪の原をぬけて バス停へむかう私の前に
ひとつの足跡がつづいている
昨日のわたしの足跡だ

昨日の私と肩を並べ 静かな白い草原を歩く

草原の真ん中を選んで歩き
クルミの木にリスの姿を探し
木の元の穴をのぞき耳を傾けるために
引き返し 立ち止まったのがわかる

昨日の私と肩を並べ
今日の私も立ち止まり耳を傾ける
昨日の音が聞こえてきそうだ

時計をながめ あきらめて また歩きだす

スロープをおりる前に バスはまだかと斜めによれた足跡
思わず同じようによれてしまった今日の足跡が
わたしを笑わせる

毎日
おなじ草原を歩き バス停にむかう
毎日 
ひとつのことを繰り返している自分がおかしい

ひとつのことを繰り返すことなしには
なにも見ることが出来ないことを
なにも聞くことが出来ないことを
なにも知り・驚くことが出来ないことに気づいているので
それをつまらないことだとは思わない

明日もまた草原を歩こう
雪が残っていれば
二つ並んだ足跡を眺めて
どんな思いがわたしの内に 浮かぶのだろうか


     **********


草原に
昨日の私が
おだやかな背をみせて先を行くのが見える
私を追いかけて 白い草原を歩く

クルミの木の下で
立ち止まった昨日の私が 今日の私と 肩を並べる

ふたり 肩を並べて歩く

草原のはしに立ち 振り返り
私たちの並び残した足跡を眺めていると

明日の私が駆けてくるのが見える

マイナスの季節
雪の消えない草原は
もう
わたしたちで いっぱいだ

     **********

どこかに
10年も前の 私の足跡は 残ってはいないだろうか

10年まえの私と
10年あとの私と
さて 話すことは なんだろう

10年たって また 戻ってくる私のために
どこかに足跡を残しておきたい

こっそりと
秘密の その場所は  何処だ?

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 (常緑)