ノート
スライド ショー
アウトライン
1
T部 日本企業の基本的な性格
  • (1)長期的な視野に立って意志決定を行う、
  • (2)社員全員が意欲的に働き、集団として企業を支える、
  • これらの性格より
  • 多数参加型意志決定(コンセンサス)方式
  • 終身雇用制
  • 年功序列制
  • 社内教育重視
  • 日本企業の強み=社員に労働意欲を持たせている
  • 日本企業の基本的性格の由来
  • 日本人の性格、例えば未来指向型、グループ帰属意識などに帰結させることができる


2
1 日本企業の特徴
  • 多数参加型意志決定
  • 日本型リーダーと西欧型リーダー
  • 日本企業の意志決定方法と西欧企業の意志決定方法の違い
  • 日本的リーダーと西欧的リーダーを比較すれば一目了然
  • 【例:アメリカの大統領と日本の首相】


3
アメリカの大統領
  • 指導者として自らの信じる方向に国を導いて行くという務めを果たす
  • 重要な意志決定はすべて自らする「スーパーマン型」
  • 集団主義の国日本ではリーダーの役割
  • 優秀な部下を選びその能力を十分に発揮させること
  • このタイプのリーダーの成功の秘訣
  • 人望があり部下が一生懸命働くような人
  • 部下の素質・能力を正しく評価できる必要
  • 日本的リーダーは「人望型」と呼べる


4
個人型企業と集団型企業1
  • 日本と西欧の企業におけるリーダー(企業幹部、例えば社長・重役・中間管理職)の役割
  • アメリカ型企業
  • スーパーマン的リーダーが必死に働いて社員・労働者達を引っ張る
  • 日本型企業
  • 多くの社員・労働者達が意欲的に働き、集団として企業を支える


5
個人型企業と集団型企業2
  • 「個人型企業」ではリーダーが優秀でありさえすれば企業は成功
  • 「集団型企業」では社員達が意欲を持たなければうまく行かない
  • 日本型企業では意志決定においても、
  • 「社員・労働者達にやる気を起こさせる方式」を取り入れる必要


6
(1)個人型企業
  • 企業幹部が意志決定を行い、
  • その決定が下部組織(一般社員・労働者)に指令として一方的に伝えられる
  • 「軍隊式」
  • 指令がうまく実行されなければ実行責任者が首になる


7
(2)集団型企業

  • 最終的な意志決定を下す前に、問題に関わる多くの人達の意向・考えかたを聞く
  • 実行を担当する下部組織の一部も意志決定のプロセスに参加
  • 意向をある程度反映する機会を与えられる
  • これは集団型企業で社員・労働者達にやる気を起こさせる工夫
  • 「多数参加型」と呼ぶ


8
多数参加型意志決定方式の利点
  • @:多数の知恵を活用する
  • 多数参加型の意志決定では、問題に関わっている全員のアイデアを汲み取ることができる
  • 例:生産性を高める方法:
  • 工場で作業している人達の方は、社長・部長・工場長などよりも効果的なアイデア
  • 下部組織の情報・知恵を無視する軍隊式の意志決定よりも、情報も知恵も有効に利用してる
  • 集団型企業では知恵を絞り出すことにも集団を利用している


9
【年功序列制度では平社員の方が優れている?】
  • 年功序列とは「勤続年数が長くなるにつれて出世する制度」
  • この制度のもとでは頭抜けた才能がある人でも長い間、下部組織の一員として過ごす
  • 平社員の中にも優れた知恵を持っている人が多数いる
  • 年功序列制度でも、多数参加型意志決定方式では、下部組織の優れた才能を生かすことができる


10
コンセンサス型意志決定の欠点:決定に時間がかかる
  • 問題に関わる多くの人達の意向を汲み取ろうとすれば、最終的決定までに時間がかかる
  • 人の立場・個性が違えばその意見も異なる
  • 少数のリーダーが専横的に決定を下す場合決定に至るまでの時間は短い
  • 関係者すべての納得を得ようとすれば、最終的合意が形成されるまでに長い時間が必要
  • 例えば、会長・社長・重役という同じような立場の3人の意見を調整するのに比べれば、
  • 担当する仕事も立場も異なる30人の意見をまとめるのは大変手間がかかる


11
【コンセンサス形成における「根回しの役割」】
  • 多数参加型の意志決定では、
  • 「対立する幾つもの原案が提出⇒
  • 正式の会議でおおっぴらに討議⇒
  • 最も良い案が最終決定
  • というパターンは取らない


12
1つの原案が作成されるが、いきなり正式の会議に提出されることはない

  • 問題に深く関わる多くの人達(部課)の原案に対する反応が前もって調べられる
  • 異論を唱える人がある場合には、それも反映すようにある程度修正される
  • このような合意形成の過程は「根回し」と呼ばれる
  • 最終的にはすべての関係者が納得するような原案が作られる
  • 正式の会議では実質的な討議は行われず、形式的に、しかし正式に最終決定が下される


13
多数参加型意志決定方式の利点
  • A:素早く効果的に実行される
  • 素早くかつ効果的に実行される傾向
  • (1)実行担当者が、決定に至るまでの過程で問題を検討している
  • 内容を正しく把握している(軍隊式では命令されるだけだから、指令内容を誤解する可能性がある)
  • (2)実行担当者の意見が決定に反映されていれば、実行不可能な内容にはならない
  • (企業幹部による独断的決定の場合には、実行する下部組織の能力を無視した内容になる危険性がある)
  • (3)実行担当者が決定に参加し納得しているため「やる気」が生まれる
  • (軍隊式意志決定方式では、実行する労働者達に責任感・積極性が伴わない)、
  • 集団型企業では社員・労働者達の「やる気」が頼り⇒ 多数参加型意志決定方式は重要な役割


14
【ナンセンスな命令をまじめに実行することの難しさ】
  • 実行担当者の目から見て「命令がナンセンスなこと」であっても、
  • 軍隊式組織では命令は実行されねばならない
  • 「馬鹿げた命令」の実行に全力を尽くすのは難しい
  • 普通の人間なら「適当に」仕事をする


15
企業にとって重要な行動であるかもしれない

  • 多数参加型の意志決定方式では、実行を担当する下部組織も状況を把握している
  • 指令の重要性を理解して行動できる
  • 状況変化で指令が適切でなくなれば臨機応変に処置することも可能


16
年功序列の功罪

  • リーダー以外はやる気を失う能力序列制度
  • 能力主義のアメリカでは優れた人材は年齢に関係なく昇進する機会
  • 「能力序列制度」で優秀な人材を活用するほうが、企業運営が効率的になる
  • これは個人型企業にとって理想の昇進制度
  • この方式では若くして企業のリーダーとなった人達は頑張る
  • 選別に漏れた大半の人々はやる気を失ってしまう
  • 頑張っても未来に見込みがないと分かれば人は頑張らなくなる


17
【特定個人が頑張りさえすればうまく行く企業】

  • 能力のある個人をどんどん引き立てる方式の方が、うまく行く分野もある
  • 少数リーダーが頑張りさえすれば、他の人達がバカンスのことばかり考えていても、優れた成果を生むケース
  • 研究開発部門がそんな分野の例
  • 少数の優れたリーダーが存在していても、他の人々が「やる気」を持たないようでは、
  • 質の良い製品を大量生産することは困難⇒ 大規模な製造企業では個人型組織はうまく作用しない


18
長く続くライバル関係1
  • 年功序列制度(年功昇進制と年功賃金制)でも能力のある人とそうでない人の間では地位に差が出てくる
  • それは長い年月を経て徐々に現れる
  • このため同時期に入社した人達(同期生)の間でのライバル関係は長く続く
  • 定年間近には当然勝負はついているが、それまでの長い間同期生は同じ土俵で競争し続ける


19
長く続くライバル関係2
  • これは、年齢に関係なく能力で地位が決められる能力序列制度とは全然違う
  • 能力序列制度では短期間で勝負が明らかになってしまう
  • 大半の人は若くして出世の見込みがないことが分かり、「やる気」を無くしてしまう
  • 個人型企業ではこれも大した問題とならないかもしれない
  • 集団型企業では致命的
  • 年功序列制度では決定的な差がつくまでの長期間、多くの人達が頑張る⇒ 集団型企業に適している


20
長く続くライバル関係3
  •  【どの大学を出ても会社での出発点は同じ?】
  • ハーバード大学の経営管理修士を取った人は、始めから企業幹部として採用される
  • (20代で年収1000万円以上だ)
  • 名の通っていない大学を卒業し、平社員として入社した人達とは、出発時点で決定的な差がついている
  • 日本ではこんなことは起こらない
  • どこの大学を出ていても新入社員は全員平社員だから、出発点では同期生は一線に並ぶ
  • 「用意ドーン!」で一斉に走りだすが、やはりあまり差が開かない
  • 集団型企業ではチームワークが大事だから、1人だけが早く走るのは望ましくない
  • 脚力があってもトップで走らず、遅れ気味の走者を助けるタイプが人望を集めて日本型リーダーとなる


21
若者しかいない企業1
  •  【「若者しかいない企業」における年功序列制度】
  • 比較的新しい企業では勤続年数の長い人がいないから年功序列制度は意味がない
  • 社員全体が若く全員が同期生のように同じレベルで競争する⇒ 能力序列制度のほうが皆を意欲的にさせる
  • 能力主義の企業には「競争的な環境を好む自信家の人達」が集まってくる
  • 年功序列制度の企業よりもはるかにエネルギッシュな企業になる傾向がある
  • このような企業も年月が経てば能力序列制度の欠点が現れてくる
  • 出世競争に破れた人達が意欲を失う問題


22
若者しかいない企業2
  • これを避けるには意欲を無くしてしまった古手社員を解雇し
  • 野心に満ちた若者を新たに採用するパターンを繰り返さねばならない
  • 若い頃には能力主義を信奉し、そのおかげで早く出世して企業幹部になった人達も、
  • 年を取れば(能力が低下するから)年功序列に頼らないと自分の地位を守れない
  • 企業幹部が年を取り年功序列制度を望ましいと思うようになれば、
  • その企業もまもなく日本的な集団型企業に生まれ変わる


23
長期的戦略の重視1
  • 企業による長期的戦略の重視
  • アメリカ企業は目前の利益を重視
  • アメリカやヨーロッパの企業の経営者・所有者(株主)の多くは短期的な利潤獲得を第一に考える
  • 株主の視野が短期的で「企業の毎期の利潤の変化」に一喜一憂
  • 経営者は次期の利潤をいかにして増加するかに苦心している
  • 機械設備や研究開発に資金を投資する場合にも、短期間に大きな利益をもたらすかが判断の基準になる


24
長期的戦略の重視2
  • 企業が機械設備に1000万ドルの資金を投下する例
  • 投資後の 3年間で投下した資金以上の収益(例えば 1200万ドル)が予想されているような場合だけ
  • その投資が長期成長をもたらす可能性⇒ 短期的な収益が十分でなければ見捨てられる


25
例:TOBとは?
  • 資金のある企業が手っとり早く利潤をあげる方法として、他企業を買収することもある
  • 買収した企業の利潤が自分のものになるから
  • 企業の発行している株の過半数を購入すればその企業を「乗っ取る」ことができる
  • 「企業乗っ取りを目指して株式を一般から買い付けること」は Take Over Bid、略して TOB
  • 短期的な利潤獲得を第一に考えるアメリカでは日常茶飯事に行われている
  • 株価が利潤の大きさと連動⇒ 利潤が短期的にでも減少すれば株価が低下して乗っ取られる危険
  • 経営者はますます毎期の利潤の大きさに一喜一憂する結果になる


26
長期的戦略の重視3
  • 長期的な視野に立つ企業
  • こんなケースでもすばやく設備拡張に資金を投下する
  • 将来のことを考える
  • 「他の企業に先駆けて投資すれば、需要が増加した暁にはマーケットシェアも高くなり利潤も増加する」


27
長期的戦略の重視4
  • 【日本企業の長期的視野の例:将来のための設備投資】
  • 産業全体としての需要が年々徐々に増加すると予想される場合
  • 短期的利潤を重視する企業であれば、需要が十分に増加するまで設備を拡張しない
  • 「早い目に投資すると、需要が設備に見合う水準に達するまでの間、需要不足=供給超過
  • 短期的に十分な利潤をあげられない」と目先の利益を考える


28
長期的戦略の重視5
  • 日本企業は長期的成長を重視
  • 日本では株主は企業の将来性を重要視し、経営者は企業の成長を第一に考える傾向がある
  • 資金を機械設備拡大や研究開発に利用する場合
  • 長期的な視野に立って考える
  • 短期的に利益を圧迫するおそれがあっても、「将来性がある」と判断されれば投資される


29
広告の比較1
  • 【日米企業広告の比較:価格割引広告 VS イメージ広告】
  • テレビ広告にも短期的利潤を求めているか長期的成長を目指しているかの違いがある
  • 日本のテレビ
  • 広告のほとんどは「消費者が企業の製品に良いイメージを抱くこと」を狙ったイメージ広告
  • この種の広告⇒ 利潤が短期的に増加することは期待できないが
  • 長期的には良いイメージを持つ消費者が多くなって企業の成長に貢献しそう


30
広告の比較2
  • アメリカのテレビ広告はかなり日本とは様相が違う
  • イメージ広告もあるが、価格割引キャンペーンを伝える広告も目につく
  • 「今月中にフォード製自動車を買えば 500ドルのリベート(価格割引の一種)がある」というような宣伝
  • 日本の企業なら、
  • 自社製品安売りの宣伝は「一時的な需要増加につながるだけで、
  • 長期的には製品イメージを傷つけて成長の妨げになる」
  • と考えるかもしれない


31
研究開発競争
  • 【日米比較例:研究開発競争(ベンチャービジネス VS 大企業)】
  • アメリカのすべての企業が短期的で確実な利潤を求めているわけではない
  • 研究開発のための投資=時間がかかり(投下した資金を失う)危険性のある投資
  • (日本と同じくらい)活発に行われている


32
ベンチャービジネス1
  • 「将来性はあるけれども危険を伴う投資」は大企業ではない
  • 新しい小規模な企業によって担われるケースが多いこと
  • アメリカでは「自分の能力を発揮するために自ら事業を起こす」頭抜けて優れた人(「企業家」)
  • あるいは「将来成功したときに利益を得る条件」で資金を出す資本家がたくさんいる
  • このような人達が組んで生まれるのが「ベンチャービジネス」
  • (直訳すれば、「冒険的事業!」)
33
ベンチャービジネス2
  • 日本ではベンチャービジネスは、アメリカほど目だたない
  • 長期的視野に立つ日本の大企業は、将来性のある投資には自ら積極的に取り組むから
  • この典型的な例として、コンピュータの基本部品であるIC(集積回路)がある
  • アメリカでは IC 産業の中心はベンチャービジネス上がりの新しい小企業
  • この産業では 200もの企業が生まれた
  • 日本で IC を生産しているのは日本電気、日立、東芝のような巨大企業


34
長期的戦略の長所

  • 短期的利益と長期的利益とは両立しない
  • 短期的利益を追求すれば長期的利益(成長・発展)は犠牲にされる
  • 長期的利益を実現しようとすれば短期的利益が損なわれる


35
短期的利潤を最大化する企業
  • 短期的利潤を最大化する企業(T企業)と将来の成長を追求する企業(C企業)が競争すれば?
  • 短期的にはT企業がより大きな利潤をあげて羽振りがよいだろう
  • 長期的にはC企業が巻き返して優勢になるはず
  • 日本企業が長期的な視野に基づいて行動⇒ 国際的な企業競争において有利に作用している


36
利潤かマーケットシェアか
  • 【日米比較:利潤かマーケットシェアか】
  • 国際的経済環境の変化のため、アメリカにおける日本製自動車の販売価格が随分と高くなった
  • この機会を利用すればアメリカの自動車企業は
  • @自分達のマーケットシェアを伸ばし、
  • A日本製自動車をアメリカ市場から駆逐して
  • 安定した将来を確保できたかもしれない


37
フォードの1987年の利潤
  • 実際には短期的な利潤を得る方を選択し、自動車価格を引き上げた
  • その結果、例えばフォードの1987年の利潤は史上空前の大きさになった
  • 長期的展望を重視する日本の企業が反対の立場に置かれれば、
  • 将来を心配し、価格を低い水準に設定して
  • マーケットシェアを拡大する方を選んだだろう
  • 日本市場からアメリカ製自動車を追い払って、以後二度と脅かされないための長期的方策を講じた


38
2 日本の労働市場
  • 日本的労働慣行:終身雇用制
  • 終身雇用制の実状
  • 日本の多くの企業、特に大企業では経営者側も労働者側も終身雇用制を当然のものとして受け入れている
  • 終身雇用制では、企業は労働者をいったん受け入れれば定年(多くは 60歳)を迎えるまで解雇しない
  • 労働者が失業の憂き目に合うのは企業が倒産したときくらいだろう
  • 労働者の方もいったん就職すればその会社に骨を埋めるつもりになる
  • よほどのことがない限り定年前に他の会社に転職することはない


39
解雇・転職
  • これに対してアメリカでは労働者が一生1つの会社に勤務し続けることはまずない
  • 景気が悪くなり(売り上げが減って)生産量を減少する必要が出てくれば⇒ 労働者をさっさと解雇
  • 労働者は条件(収入・地位)の良い職場を求めて簡単に転職する


40
終身雇用制の存在1
  • 【日本に終身雇用制は存在するか】
  • 統計表11−1には日本の大企業の平均勤続年数が示されている
  • 入社は 20歳前後で、定年は大体 60歳だから、終身雇用制であれば約 40年間勤務することになる
  • 20歳から 60歳までの間に社員が一様に分布されていれば(つまりどの年齢の社員の数も同じであれば)
  • 平均的な社員の年齢は 40歳で勤続年数は 20年となる


41
終身雇用制の存在2
  • 統計表1を見れば明らかなように実際には平均勤続年数は 20年には達していない
  • これは企業が雇い入れる労働者数が年々増加しているため
  • 若い年齢層ほど社員数が多く、平均的な社員の年齢が40歳に満たないため
  • 終身雇用制の場合には、社員の平均年齢から(入社時の年齢である)20を差し引いた値が平均的勤続年数
  • 例えば、社員の平均年齢が 30歳であれば、平均勤続年数はほぼ 10年になる
  • 統計表1にこの方法を適用して推定するとやはり日本の大企業では終身雇用制に近い慣習が存在


42
終身雇用制の存在3
  • 日本企業の勤続年数と男子従業員の平均年齢
  • ------------------------------------------
  • 企業       勤続年数   男子従業員
  •              平均年齢
  • ------------------------------------------
  • 富士フィルム    17.1年    38 歳
  • 東レ        19.9     39.8
  • ソニー       12.8     36.7
  • 日立製作所     15.6     36.4
  • ------------------------------------------



43
何故労働者を解雇しない
  • 日本企業は何故労働者を解雇しないか?
  • 企業(経営者)サイドから見れば、終身雇用制が手かせ足かせになる場合も考えられる
  • (例えば石油ショックのために)需要量・生産量が大幅に減少したとき
  • 労働者も大量にあまるが、終身雇用制は労働量の削減を困難にしてコスト(人件費)の上昇を招く
  • コスト上昇は利潤を圧迫するから、調整に失敗すれば倒産する危険もある
  • 何故このような危険を冒してまで日本の企業は労働者解雇を避けるのだろうか
  • @日本企業の視野が長期的であること、
  • A日本企業が集団型であることの2つの要因が、
  • その主な理由と思われる


44
長期戦略と終身雇用制
  • 経済活動に変化はつきものだから必要な労働量も変化する
  • 日本の企業は長期的戦略に基づいて行動⇒ 短期的な需要変動に応じて労働者を解雇/再雇用したりしない
  • 短期的利潤を求めるのであれば生産量に合わせて労働量を調整する
  • 視野が長期的な企業の対応は異なる
  • 終身雇用を保証することで質の良い労働者を確保
  • 労働者にやる気を起こさせる
  • 企業の長期的な成長・発展には有利と考える


45
集団型企業と終身雇用制
  • 景気が悪くなった途端に首になるようでは、大抵の人は一生懸命働く気にはならない
  • 個人型企業ではリーダーさえ意欲があれば良い
  • 集団型企業にとっては一般労働者の「やる気」は重要
  • 終身雇用制のもとでは労働者の運命と企業の運命は同じ
  • 企業の発展は社員の社会的地位を向上させるが、企業が失敗すれば失業する
  • 終身雇用制は労働者が企業の発展・成長に努力するような心理を生み出す
  • 日本の集団型企業は終身雇用制を取り入れることで労働者の「やる気」を確保していると考えられる


46
年功序列制と終身雇用制の関係
  • 日本の労働者は何故転職しないか?
  • アメリカでは労働者のほうも待遇の良い企業が見つかればさっさと転職する
  • 能力主義の世界では昇進も昇給も個人の働きに応じて与えられる
  • ⇒ 同じ企業に長く勤務しているというだけでは昇進・昇給は期待できない
  • 自分の能力を高く評価してくれる企業を捜して次々と転職する方が地位も収入も高くなる


47
勤務先を変える理由
  • アメリカの労働者が転々と勤務先を変える理由の1つはアメリカの能力主義にある
  • 年功序列では1つの企業に長く勤務していれば次第に地位も上がり収入も増える
  • ⇒ 労働者はできるだけ転職を避けようとする
  • 日本の労働者が終身雇用制を受け入れているのは年功序列制が存在するからと言える
  • 年功序列制度は労働者の転職を防ぐことで終身雇用制を裏から支えている


48
あなたならどうするか?
  • 後輩が自分を追い越してどんどん出世していくのを見る
  • ⇒ 「この会社は私に適してないのではないか
  • 『自分を正しく評価してくれる会社』
  • がどこかにあるのではないか」
  • と考えるようになっても不思議ではない
  • そんなところへ、
  • 自分の能力を高く評価し、良い地位・高い給料で勧誘する会社が現れたら
  • ⇒ あなたはどうするか



49
社内教育1
  • 終身雇用制は社内教育を可能にする
  • 日本の企業では労働者を採用⇒ 入社後2,3カ月程度は社内での教育に専念
  • 多くの企業が全費用を負担して、社員を外国の大学院に送って教育を受けさせたりもする
  • 実務に付いた後も数年ごとに配置転換して企業内の職場を移動
  • ⇒ さまざまな技能を学ばせ経験を積ませる



50
社内教育2
  • この社内教育は終身雇用制のもとでのみ可能
  • 社内教育を終えた途端に退社するようでは企業の努力も無駄になるから
  • 終身雇用制の慣習がないアメリカでは、企業が本格的に社員を教育することはない
  • 始めから仕事ができる経験労働者を雇い入れようとする
  • 「労働者を働かせることに専念する企業」と比較すれば、
  • 時間をかけて本格的に労働者を教育する企業の方が、
  • 長期的には労働者の能力を高め生産性を上げる結果になる


51
配置転換の重要性1
  • 技術革新の導入が容易になる
  • 終身雇用制が存在するため日本の労働者は、長い会社人生を通してさまざまな職場を転々と動く
  • 例:
  • 入社後 6カ月間は社内教育
  • その後神奈川の工場勤務が 2年
  • 広島支店販売部に 5年
  • 大阪支社コンピュータ部に 3年
  • 東京本社総務部に 3年
  • 札幌支社人事部に 7年
  • 東京本社経理部に 5年
  • といった具合


52
配置転換の重要性2
  • 配置転換はいろいろな効果をもたらす
  • かっての同僚がさまざまな部課に配置されている
  • ⇒ 社内間のコミュニケーションが円滑になる
  • メンバーがどんどん入れ替わるためマンネリズムに陥って沈滞するのを防ぐ


53
配置転換の重要性3
  • 最も重要なのは労働者の適応力を高めて技術革新の導入を容易にすること
  • 20年間なんの変化も経験していなければ、労働者は変化を拒否するようになる
  • 企業も「急激な変化をもたらす技術革新」の導入に慎重にならざるをえない
  • ところが、配置転換を経験している労働者はそのたびに新しい技能を収得している
  • 変化に順応する経験があるから、技術革新に対しても拒否反応が生まれない
  • 企業はスムースに技術革新を導入することができる


54
配置転換の重要性4:
  • 各部門で意志決定:企業全体の利益を考えて対処すること必要
  • 配置転換=いろいろな部門の知識->さまざまな立場より問題を検討する機会
  • 特定の部門にいる人も企業全体のことを考えて決断を下す
  • 全体的視野に立って始めて整合性のある方策を工夫することが可能
  • 視野を広めること」も配置転換の大切な効果の1つ
  • 配置転換=問題を複数の視点より総合的に分析する能力が生まれる
  • ->効果的なアイデアを生み出すために重要


55
日本労働力の特性
  • 日本経済が順調に成長し、国際競争力を高めてきた原因の1つは?
  • 日本の労働者が企業成長や経済発展に協力的であったこと
  • 企業別労働組合と職能別労働組合
  • 「労働組合は企業別」と日本人なら考えるだろう
  • 例えば、「全日空の労働組合」のように労働組合には企業名
  • ストライキでも「全日空の労働組合がストライキ」と表現される
  • ところが、企業別に組合を結成するのは日本独特


56
職能別労働組合
  • アメリカやヨーロッパでは普通は職種に対応して労働組合(職能別労働組合)を結成する
  • 例えば「飛行機整備工の労働組合」、「航空カウンター勤務者の労働組合」となる
  • この違いは、日本には終身雇用制があるのに対し
  • アメリカなどの国では解雇・転職が頻繁に起こるという制度差から生じたもの
  • 終身雇用制で一生同じ会社に勤めることになれば
  • ⇒ 同じ会社に働く人達の間に連帯意識が生まれ、企業別に労働者が連帯することになる


57
非終身雇用制社会と職能別労働組合
  • 終身雇用制の慣行がない社会ではいつ解雇されるか分からない
  • ⇒ ある特定の企業の賃金水準が上昇してもあまり意味がない
  • 転職すれば賃金水準の低い企業で働く羽目になるから
  • 職能別労働組合を結成して、どの企業でも同じ賃金水準にしておくほうが賢明
  • 例えば、飛行機整備工の賃金はどこで働いても時間当たり 12ドル
  • ⇒ ある企業から解雇されて他の企業に勤めることになっても、賃金低下は起こらない


58
円滑な労使関係
  • 日本で企業別労働組合ができるのは?
  • 「終身雇用制で労働者が企業に結びつけられ、労働者と企業が運命共同体になっている」ため
  • 労働者達がこの運命共同体的関係を自覚していることが、日本の労働者の行動パターンを決めている
  • 「企業が成功すれば自分も恩恵を受けるし、企業が失敗すれば自分も被害を被る」


59
対立関係というよりは協調関係
  • 例えば、ストライキは短期的賃金上昇
  • 自分達の企業を傷つけるから、「長期的には自分自身を傷つける結果になる」と考える
  • 経営者側も、集団型企業における労働者の「やる気」の大切さを認識している
  • ⇒ 企業の発展に応じて賃金を引き上げた
  • 日本の企業別労働組合と経営者側の間は、対立関係というよりは協調関係
  • 労働争議は少ないが賃金が上昇するのが日本の特徴


60
品質管理の成功
  • 個人型企業ではリーダーは意欲的に働くが、一般従業員の労働意欲に問題が生じる
  • 製造業で財を生産するのは一般労働者だが、
  • 労働意欲の欠如から無断欠勤が常態になったり、手抜き作業で製品の品質を低下させたりする
  • 集団型企業は対照的
  • 「やる気」のある労働者達が生産を担当するから、品質の良い製品が生産されることになる
  • 終身雇用制のおかげで企業と一体感を持った労働者は、自社製品の品質に誇りを持つようになる


61
統計例:自動車の故障率
  • 統計表11−5はアメリカと日本の自動車の故障頻度を示す統計
  • 日本製の自動車はどの年度に生産されたどの車種でも「平均よりも故障がずっと少ない」
  • アメリカ製の場合には車種・年度でかなりばらつき
  • しかも多くは「平均的な故障頻度」、「平均よりも故障が多い」、「よく故障する」のランクになっている
  • このように生産される財の品質に差が生じるのは?
  • アメリカは個人型企業で日本は集団型企業である事の違いから来ているのかもしれない


62
日米自動車の修理頻度比較1
  • ----------------------------------------------------------------------------
  • *    よく故障する        **   平均より故障が多い
  • ***   平均的に故障する      ****  平均より故障が少ない
  • *****  ほとんど故障しない
  • ----------------------------------------------------------------------------
  • ビュイック      シボレー     クライスラー    フォード
  • センチュリー4     カマロ6     ル・バロン4   ムスタング8
  • '82  ***      '82  *      '82  ***      '82  ***
  • '83   **      '83  *      '83  **      '83  **
  • '84  ***      '84  *      '84  **      '84  ***
63
日米自動車の修理頻度比較1
  • オルズモビル     プリムス     ポンティアック   日産
  • カットラス・シエラ4  ホライゾンTC-3  ファイアーバードV8 マキシマ
  • '82   **       '82  *      '82   *      '82  *****
  • '83   **       '83  *      '83   *      '83  *****
  • '84  ***       '84  *      '84   *      '84  *****
  • 本田         マツダ      スバル       トヨタ
  • アコード       RX-7       4WD         カローラ
  • '82  *****      '82  *****    '82  *****    '82  *****
  • '83  *****      '83  *****    '83  *****    '83  *****
  • '84  *****      '84  *****    '84  *****    '84  *****
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